大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

長崎地方裁判所 昭和33年(わ)301号 判決 1959年4月07日

被告人 山田喜三郎

昭一一・八・二六生 自動車運転者

主文

被告人を禁錮四月に処する。

但しこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は普通自動車運転免許第二〇、二五四号を有し、長崎市桶屋町所在長崎貨物自動車運送株式会社に雇れ、貨物自動車の運転業務に従事する者なるところ、昭和三十三年一月二十六日午後七時五十分頃、右会社所有に係る長崎一―三四四五号普通貨物自動車に小口貨物を積載して、諫早方面より長崎市に向い国道線を時速約二十五粁で道路中央部を南進中、西彼杵郡東長崎町町名六百八番地附近に差掛つたが、当時は北風を伴う風雨が強くウインドウ・クリーナーの活動により該ウインドウより前方約五十米の地点で巾員約九、八〇米(車道巾員約七米)の中央部を洋傘を前方に傾け対面歩行し来る荒木久八(当六十四年)を自動車前照燈の光りでようやく発見したが、かかる場合、自動車運転者たる者は、当時は暗夜にして前記風雨中のため、雨に濡れ左右のウインドウからは見透しが殆どきかないのであり、前方も僅かにウインドウ・クリーナーの活動により見透し得る程度であるのみならず、対面歩行の右荒木久八は風雨をさける為洋傘を前方に傾けているため、前方の視野を有しない者であるから、直ちに警音器を吹鳴して右歩行者に自動車が近づきつつあることの警告をなして之れを知悉せしめるとともに速度を充分に低下し、右歩行者が完全に避譲し或は自己の運転する自動車を右に切る等の安全なる措置を構じ事故を未然に防止して運転する業務上の注意義務あるに拘らず、警音器を二、三回吹鳴したのみで不注意にもこれを怠り右荒木が道路中央より左側斜に歩行し出したのを見て直ちに同人が完全に左路上に避譲するものと軽信し、その後の同人の歩行動静を注視することなく、同一速度で漫然道路中央部を進行した等の過失により、前記荒木を自動車の左荷台で突倒した上、左後車輪にて同人の大腿部を轢過し、因つて同人に対し左後頭部不規則星形裂創、左側頭後部を中心とした頭蓋骨の大亀裂骨折、左右大腿部筋肉挫滅創等の傷害を加へ翌二十七日午後一時三十五分長崎市出島町所在の弘仁会朝永病院において頭部打撲による脳障害により死に致らしめたものである。

(証拠の標目)<省略>

(法令の適用)

刑法第二百十一条、罰金等臨時措置法第二条、第三条(判示所為、所定刑中禁錮刑を選択する)

刑法第二十五条第一項(執行猶予)

刑事訴訟法第百八十一条第一項本文(訴訟費用の負担)

(裁判官 細見友四郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例